もう15年くらい前だろうか、筒井康孝さんが書いた「ラルゴ」という小説を読んだ。
瞬間移動する遊牧民と出会った主人公は、供に瞬間移動をしながら遊牧民達と生活をする。遊牧民達の戦争にも参加する。その中に若い娘がいて恋をするが、主人公は自分の故郷に帰ることになる。大学で教鞭を取った後、年老いた主人公は遊牧民の若い娘が忘れられずに旅に出る。が、娘と合う事が出来ず帰らぬ人となる。
簡単に言ってしまうとこんな感じだったと思う。
コメディータッチのおちゃらけたSFばかりしか書かないのかと思っていたのだが、この小説だけは異色で痛く感動した。
************************************
キャンプに行く前日、訃報が届いた。
Tさんとの出会いは5、6年前。栃木県小山市にある生涯学習センターだったと思う。そこにドイツ製のベーゼンドルファーという良いピアノがあるので、「いたずら弾きして来よう」という某フォーラムの企画だったと思う。彼の第一印象はちょっと堅めの白髪の紳士。
いずれいろいろな場所でTさんと出会う事になり、親しくお付き合いさせていただいた。彼がオゾン計測を研究するT大学の教授であるということは間接的にお聞きした。
Tさんはピアノをちゃんと習ったわけではなく、たまたま家にピアノがあったので独学でいたずら弾きをしていたという。そういうところは私にとてもに似ている。大変なバッハ好きだったが、ロマン派の作曲家の演奏をしても遜色がない。楽譜に忠実に弾く事から、演奏者としての資質も持っていたのだろう。バッハの数理的な曲を弾いても大変にロマンチックに聞こえる。作曲者の意図していることを熟知して弾いているようだった。私の結婚式の時はバッハがその妻、アンナに送ったとされる愛情深い曲を演奏してくれた。
************************************
暫くお会い出来ていなかったTさんからメールをいただいた。「胃癌=死の病」という内容のものだった。60歳になったとも書かれていた。
************************************
訃報を聞いたとき、とても悲しく、寂しく、悔しく、つらかった。しかし、彼自身が自分の死期を察知してのことなのか、ここ数年の彼の行動は本当に好きな事を模索し、実現していけたのだと思う。
************************************
ラルゴは娘に再会できなかったけれど、Tさんの恋人であった「バッハのピアノ」の真髄には出会えたのでたのであろうか。そんなことがちょっと気になる。
************************************
ご冥福をお祈りいたします。Tさん。
そして私も悔いの無い人生を送りたい。
最近のコメント